彼の魔法なしに、ヒット曲は生まれなかった。
日本を代表する作・編曲家、瀬尾一三の
芸能活動50周年記念盤 '70~'00年代大ヒット名曲集、第2弾!
名曲たちを通して
~日本の音楽シーンの軌跡がみえてくる~
中島みゆき、吉田拓郎、かぐや姫、長渕剛、德永英明、杏里、松田聖子、西城秀樹 からももいろクローバーZまで、日本のフォーク、ニューミュージック、J-POP、アイドル界に燦然と光輝くアーティスト達の編曲家で、音楽プロデューサーである瀬尾一三。2017年、生誕70周年を記念して、その大いなる瀬尾Worksをまとめた『「時代を創った名曲たち」~瀬尾一三作品集 SUPER digest~』をリリース。同ジャンルのコンピレーションアルバムとしては異例の好セールスを記録。そして2019年に迎える、作曲・編曲活動50周年を記念して、続編2作のリリースを予定しているが、今作は作品集2作目にあたるコンピレーション盤。瀬尾が関わったそうそうたるアーティストの名曲を通して、フォーク、ニューミュージック、J-POPの黎明期から現在までの日本の音楽シーンをアレンジ(編曲)で支え続けてきたその軌跡を体現できる作品集。そして今作もBlu-spec CD2を採用し、より原音に近い音で楽曲を楽しんでいただけます。
2019年1月30日発売
¥2,778(税抜)/ YCCW-10357
≪収録曲≫
- 01. ひとつぶの涙(1972)
- シモンズ
- 02. グッド・タイム・ミュージック(1974)
- 斉藤哲夫
- 03. 中央フリーウェイ(1977)
- ハイ・ファイ・セット
- 04. 気分を出してもう一度(1977)
- 立木リサ&今野雄二
- 05. 海風(1977)
- 風
- 06. 魔法使いの恋人が逃げた(1978)
- 谷山浩子
- 07. マスカレード(1978)
- 庄野真代
- 08. 終章(エピローグ)~追想の主題(1980)
- CHAGE and ASKA
- 09. 聖・少女(1982)
- 西城秀樹
- 10. NATURALLY(1983)
- 八神純子
- 11. 6月の雨(1984)
- 松山千春
- 12. 春でも夏でもない季節(1985)
- 石川優子
- 13. RONIN(1985)
- 吉田拓郎
- 14. 乾杯 -NEW RECORDING VERSION- (1988)
- 長渕 剛
- 15. 最後の言い訳(1988)
- 德永英明
- 16. 雪・月・花(1998)
- 工藤静香
- 17. ヘッドライト・テールライト(2000)
- 中島みゆき
ボブ・ディランは歌った。水かさが増せば、泳ぎ出さなきゃならない。でなきゃ、石のように沈んじまう。そう、時代は変わる。そう、時代は変わった。
30年以上前の事。
とあるレコード会社のディレクターに真顔で言われた一言。
「詞とメロディが素晴らしければ、弾き語りだけでも名曲になる」。
あのときのどうしようもない違和感を覚えている。
古い音楽界の古い定型文だ。迷信。
あまりにも大切なものを置き去りにしていないか。
作詞と作曲、そして編曲は、同列で語られるべきだ。
編曲は、しばしばファッションに例えられてきた。
裸の歌に、ときにモダンな、ときに華麗な、ときに奇抜な服を着せるのが編曲の役目だから。一理ある。
事実、そうした心得で編曲をしているアレンジャーもいるだろう。
しかし、この例えの底を流れているのは、「詞とメロディが素晴らしければ…」の発想ではないだろうか。
編曲を例えるなら、むしろ演劇などの演出のほうがきっと近い。
歌手が役者、歌詞と旋律が脚本。
しかし、それだけでは舞台の幕は開かない。
役者を導くのも、衣装の布地に頭を悩ますのも、照明にダメ出しするのも演出家なのだから。
同様に、曲のイントロもエンディングも、歌手の情感を導くのも、コードひとつ書き換えるのも、たった1個のを抜き差しすることで、曲の印象を劇的に変えてしまうのも編曲家の範疇である。
ことほどさように編曲家の存在は大きい。責任重大。
たとえば中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」。
編曲を担った瀬尾一三の真意は、知る由もないが、イントロでストリングスがフェイド・インすると、夜に横たわる広大な地平の先が、ゆっくり紫色に染まるのが、筆者には見える。遥かな暁。帰りそびれたのか、いくつかの星がきらめく。舞台の幕が開くのである。
さらにサビ。
ライトの「ラ」、終わらないの「ら」。そのRaの響きの美しさ。もちろんシンガーの力量ではある。しかし、編曲の妙でもある。シンガーは本能的に響かせ、編曲家は意図的に響かせる。Raにシンガーと編曲家がそれぞれの角度からスポットライトを当てているから、より一層輝くのだ。
このRaの響きこそが「ヘッドライト・テールライト」の風格の源に他ならない。すなわち瀬尾一三のアレンジが曲に風格、あるいは品格を与えている。
では、ここでいう風格や品格はいかなるものか?
映画『スター・ウォーズ』に登場するフォースのようなものだろう。
瀬尾がアレンジした『よしだたくろう LIVE '73』収録の「落陽」を、今一度聴き直していただきたい。
斉藤哲夫『バイバイ グッドバイ サラバイ』収録の「今日と明日をむすぶかけ橋」や本作に収録されている「グッド・タイム・ミュージック」でもいい。
歌詞とメロディだけでは、もしくは弾き語りでは得られない、特別なフォース、つまり風格をまとっているではないか。
ボブ・ディランは歌った。時代は変わると。
だが、風格は時間に蝕まれない。500年以上前に描かれたモナ・リザ、40年以上前にレコーディングされたビートルズの「レット・イット・ビー」も、その風格に曇りはない。
瀬尾が曲に授けようとしている風格も同じだ。
歌手は船乗り、歌詞と旋律が船なら、時代(大海)を越える風を孕む帆が編曲なのもしれない。
藤井徹貫(音楽ライター)
―楽曲解説―
ひとつぶの涙
シモンズ
*ALBUM『若草のころ』より
関西女性フォークデュオ、シモンズの4枚目シングル。1ヶ月先行のセカンド・アルバム『若草のころ』からのシングルカット。この曲は瀬尾が作詞・作曲を担当。1番と2番の間に♪ラララ……と追いかけっこするようなハモりが聴きどころ。編曲は元ハニー・ナイツの葵まさひこが担当している。
1972年4月25日発売
作詞:瀬尾一三 作曲:瀬尾一三
編曲:葵まさひこ
グッド・タイム・ミュージック
斉藤哲夫
斉藤哲夫の4枚目のシングル。バックコーラスにはシュガー・ベイブも参加。ファーストアルバム『君は英雄なんかじゃない』(1972年)から『バイバイグッドバイサラバイ』(1973)、『グッド・タイム・ミュージック』(1974年7月21日)『僕の古い友達』(1975年)4枚のアルバムも瀬尾とのタッグ。瀬尾のフルアルバムのアレンジ、共同プロデュースは斉藤哲夫がはじめてである。
1974年5月21日発売
作詞:斉藤哲夫 作曲:斉藤哲夫
編曲:瀬尾一三
中央フリーウェイ
ハイ・ファイ・セット
*ALBUM『ラブ・コレクション』より
デビュー曲「卒業写真」をはじめ荒井由実(ユーミン)の曲を数多くヒットさせた元・赤い鳥の3人組コーラスグループ(山本潤子、山本俊彦、大川茂)によるカバー。ハイ・ファイ・セット3枚目のアルバム『ラブ・コレクション』に収録。このアルバムは1曲を除いて全て瀬尾アレンジ。オリコン週間、及び年間LPランキング1位を記録している。「中央フリーウェイ」はユーミン4枚目のアルバム『14番目の月』に原曲が収録。男女3人のハモりならではの瀟洒なムードを原曲にはないサックスソロで盛り上げる。その他『雨のスティション』も瀬尾のアレンジである。
1977年2月5日発売
作詞:荒井由実 作曲:荒井由実
編曲:瀬尾一三
気分を出してもう一度
立木リサ&今野雄二
安井かずみ&加藤和彦による作詞・作曲作品。深夜番組『11PM』に出演していた映画・音楽評論家の今野雄二とモデルで女優の立木リサ(現 秋川リサ)のデュエット。高橋幸宏、後藤次利、今井裕のサディスティックス勢に鈴木茂や瀬尾らが加わったTHE BOYS IN THE BANDがバックを務めている。2018年10月リリース野宮真貴「渋谷系ソングブック」にクレイジー・ケン・バンドの横山剣とのデュエットが収録され、近年シティーポップとして再評価されている。
1977年6月21日発売
作詞:安井かずみ 作曲:加藤和彦
編曲:瀬尾一三
海風
風
*ALBUM『海風』より
かぐや姫の伊勢正三と猫の大久保一久が結成した風の4枚目のアルバム表題曲。前作のアルバム『WINDLESS BLUE』からアルバム全曲を瀬尾がアレンジ。今作ではアーバン色を強めてきた作風の魅力を最大限に引き出すべくロサンゼルス録音を敢行。ソウル / ジャズ・フュージョン色の濃い西海岸的なサウンドを全面展開し、風の世界観を大きく広げている。オリコン週間LPランキング1位を記録。
1977年10月25日発売
作詞:伊勢正三 作曲:伊勢正三
編曲:瀬尾一三
魔法使いの恋人が逃げた
谷山浩子
*ALBUM『もうひとりのアリス』より
国内外の童話をベースにした曲を集めた谷山浩子アルバム『もうひとりのアリス』(プレデビュー作ともいえる『静かでいいな~谷山浩子15の世界~』を含めると3枚目)の中で唯一、童話原作がない完全オリジナル曲。マリンバの音色を効果的に使っている。
1978年3月10日発売
作詞:谷山浩子 作曲:谷山浩子
編曲:瀬尾一三
マスカレード
庄野真代
卓越した歌唱力を誇るシンガー庄野真代の7枚目のシングル。同年4月の「飛んでイスタンブール」の大ヒットに始まる筒美京平エキゾチック歌謡路線の3弾目の作品で、《エルパソ》の地名に導かれてマリアッチ風のトランペットが入る。オリコン週間シングルランキング16位を記録。
1978年11月25日発売
作詞:竜 真知子 作曲:筒美京平
編曲:瀬尾一三
終章(エピローグ)~追想の主題
CHAGE and ASKA
*ALBUM『風舞』より
メインボーカルがCHAGE。ファーストアルバム『風舞』に収録。瀬尾によるインスト「追想の主題」(アルバム冒頭の「追想」と同じモチーフ)が追加されて興趣を増している。アルバム曲だが多くのファンに愛されるCHAGE and ASKAの代表作の1曲。
1980年4月25日発売
作詞:CHAGE・田北憲次
作曲:CHAGE
編曲:瀬尾一三
聖・少女
西城秀樹
西城秀樹42枚目のシングル。作詞に松本隆、作曲に吉田拓郎のコンビ作品。瀬尾へのアレンジの依頼は吉田拓郎から。吉田拓郎は当時27歳の西城にふさわしい大人のセクシーさと包容力を見事に表現し、ツインギターのソロとサビのバックで鳴るストリングスがそれを彩る。オリコン週間シングルランキング9位を獲得、この年の第33回NHK紅白歌合戦でも歌われた。
1982年6月21日発売
作詞:松本 隆 作曲:吉田拓郎
編曲:瀬尾一三
NATURALLY
八神純子
八神純子17枚目のシングル。テレビ朝日系ドラマ『女たちの課外授業』主題歌。今作収録の同年12月発売7枚目のオリジナル・アルバム『FULL MOON』(1983年)は全曲、瀬尾によるアレンジとなっている。ビートを強調したニューウェイヴ風のサウンドはアルバムの中でも突出している。
1983年8月5日発売
作詞:山川啓介 作曲:八神純子
編曲:瀬尾一三
6月の雨
松山千春
*ALBUM『愛を贈る』より
松山千春11枚目のアルバム『愛を贈る』に収録されたバラード。情感豊かな松山一流の歌声に、アコースティックな音色にさりげなくシンセのアクセントを効かせたアレンジが寄り添う。ファンの多い曲で、4枚組ベスト・アルバム『季節の旅人~春・夏・秋・冬~』にも収録。
1984年5月21日発売
作詞:松山千春 作曲:松山千春
編曲:瀬尾一三
春でも夏でもない季節
石川優子
「シンデレラ・サマー」やCHAGEとのデュエット「ふたりの愛ランド」をヒットさせたシンガーソングライター石川優子16枚目のシングル。作詞は秋元康。今作は現在のライブでも歌われるナンバー。彼女らしい人懐っこいメロディをいなたさ寸止めに調整したハモりが絶妙だ。今作を含め、全23枚のシングル中、タイトルナンバー8曲が瀬尾のアレンジである。
1985年4月21日発売
作詞:秋元康 作曲:石川優子
編曲:瀬尾一三
RONIN
吉田拓郎
1986年公開武田鉄矢主演の映画『幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬』挿入歌として発売されたシングル「ジャスト・ア・RONIN」(加藤和彦とのデュエット)のB面曲。曲の進行とともに音の厚みが増し、最後に加わる地響きのようなコーラスが勇壮な曲想をさらに盛り上げている。ジャケット写真に使われている、吉田拓郎と加藤和彦が映るポラロイド写真は瀬尾による撮影である。
SG「ジャスト・ア・RONIN」B面
1985年12月5日発売
作詞:吉田拓郎 作曲:吉田拓郎
編曲:瀬尾一三
乾杯 -NEW RECORDING VERSION-
長渕 剛
1980年に3枚目のアルバム表題曲として発表。8年後、今作のNEW RECORDING VERSIONで初シングル化。オリコン週間シングルランキング1位を獲得。今作が収録されたアルバム「NEVER CHANGE」は全曲、瀬尾アレンジである。今作ではフォーク色を払拭し、ヴォーカルの変化に伴って骨太なバラードに生まれ変わらせた。長渕 剛とは4枚目「春待気流」(1980年)から、26枚目の「RUN」(1993年)まで23作連続でシングルタイトルナンバーの編曲で携わっている。
1988年2月5日発売
作詞:長渕 剛 作曲:長渕 剛
編曲:瀬尾一三・長渕 剛
最後の言い訳
德永英明
「風のエオリア」(1988年)に始まった瀬尾とのタッグ第2弾は德永英明、6枚目のシングルとして発売。フジテレビ系ドラマ『直木賞作家サスペンス』の主題歌。また、山田洋次監督映画『男はつらいよ』第45作「寅次郎の青春」、第46作「寅次郎の縁談」で寅次郎の甥、諏訪満男の心情を表すシーンで使用されている。ストーリー性のあるアレンジで、主旋律にピアノのメロディが絡む終盤が白眉。その他「夢を信じて」(1990年)、「壊れかけのRadio」(1990年)、「バトン」(2017年)も瀬尾のアレンジである。
1988年10月25日発売
作詞:麻生圭子 作曲:德永英明
編曲:瀬尾一三
雪・月・花
工藤静香
中島みゆきによる提供曲で工藤静香31枚目のシングル。フジテレビ系ドラマ『金曜エンタテイメント』エンディング曲。中島みゆき自身もコンサートツアー「中島みゆき CONCERT TOUR’98」で歌唱。2002年30枚目のオリジナル・アルバム『おとぎばなし -Fairy Ring-』でセルフカバーしている。どちらも瀬尾のアレンジである。派手な上ものでエモーショナルな歌を盛り立てるアレンジは《移ろわないのが恋心》の一節に呼応したかのようである。
1998年2月18日発売
作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき
編曲:瀬尾一三
ヘッドライト・テールライト
中島みゆき
NHK総合テレビ『プロジェクトX~挑戦者たち』エンディング曲。オープニングの「地上の星」との両A面で中島みゆき37枚目のシングルとしてリリース。発売後2年半でオリコン週間シングルランキング1位を獲得したミリオンセラー楽曲。28枚目のオリジナル・アルバム『短篇集』に収録。2005年『プロジェクトX~挑戦者たち』最終回で同曲をスタジオ歌唱。ライブツアー「中島みゆき 縁会 2012~3」の映像、CDではこの最終回バージョンの瀬尾アレンジを聞くことが出来る。歌の進行に完璧にシンクロした編曲は伴奏を超える「伴走」である。
2000年7月19日発売
作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき
編曲:瀬尾一三
プロフィール
1947年9月30日生。兵庫県出身、音楽プロデューサー、編曲家、作曲家。1969年フォークグループ「愚」として活動。1973年ソロシンガーとしてアルバム『獏』をリリース。同年に「LIVE '73」を吉田拓郎と共同プロデュース。その後、中島みゆきをはじめ、吉田拓郎、長渕剛、德永英明 他、今作品に収録された日本のポップス、ロックシーンの黎明期から現在まで燦然と光輝くアーティスト達の作品のアレンジ(編曲)やプロデュースを手掛け、中島みゆきにおいてはコンサート、『夜会』、『夜会工場』の音楽プロデュースも努めている。2017年自身初の作品集『「時代を創った名曲たち」~瀬尾一三作品集 SUPER digest~』を発売。同ジャンルのコンピレーションアルバムとしては異例の好セールスを記録。
「時代を創った名曲たち」
~瀬尾一三作品集 SUPER digest~